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「じゃないと、見えないだろ、俺がここで待ってるのが」
……。
「……ぇ、待っ……」
だけど顔は上げれない。
たくさん泣いた瞼は見せられない。
「聞いてる?」
「……」
小さく靴音が聞こえます。
それは段々近づくようで。
「ね、聞いてる?」
「……っ!」
昨日まで大好きだったあなたが、今日もまだ大好きなあなたが。
「見……なぃで……下さ」
腰を屈め、首を傾げて覗き込んでくるなんて。
「……いっぱい、泣いたね?」
「……」
それは仕方がないのです。
幸せがとても大きかった分、哀しみもとても深かったから。
「顔、上げて?」
「……」
首を振って答えます。
まだまだとっても辛いから、あなたを見つめるのは怖いのです。
それなのに。
「上げて」
「……っぁ」
身体が固まって動けません、鞄は驚いて落としました。
どうして。
「やっと見えた」
あなたの手が両頬を挟んで持ち上げるから、光の無くなった私の視界、あなたの瞳が、こんなに……近く。
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