第一章

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 それにしても、不快なほど湿り気の多い病室だ。  壁伝いに僅かに聞こえる雑音で、自分がいる艦のおおよその大きさが分かる。  人が走り回る騒音、笛や鐘のざわめき、エンジン音、どれも、愛宕のそれより数、種類が格段に多い。  「河口大尉、ここはどこですか?」  再び部屋に戻って来た丸メガネの男に話しかけてみる  部下らしき男に何やら指示しているのか、俺の声が届いていない。  会話の中身が雑音にかき消され、よく聞こえないが、どうやら部下に食事の準備を指示しているらしい。  こんな戦時に、呑気な大尉だ。  「大尉、それでは食事は通信室に運びます」  「ああ、すまない。手間を取らせるね」  「いえ、とんでもない。何なりと申し付けてください」  河口と名乗った男は、よほどお人好しなのか。  部下に食事を運ばせるくらいで、詫びる必要などないというのに、申し訳なさそうに片手で拝むしぐさをしている。  「ああ、それからもう一つ、彼の包帯はどのくらいで取替えるのだろうか。ひどく血がにじんでいる。医師に伝えてほしい。規則は規則だ。しっかり看護するように。と」  「ハッ、畏まりました。すぐにお伝えいたします」  規則は規則とはどういう意味だ?  うがった見方をすれば、重症だから、無駄に包帯を消耗するだけとでも言いたいのか…… 部下らしき男は、敬礼し、視界から消えていった。  扉を閉める音が聞こえるが、開閉で発せられる鉄扉特有の摩擦音がかなり鈍い。  どうやら相当大きな艦らしい。
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