12人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
それにしても、不快なほど湿り気の多い病室だ。
壁伝いに僅かに聞こえる雑音で、自分がいる艦のおおよその大きさが分かる。
人が走り回る騒音、笛や鐘のざわめき、エンジン音、どれも、愛宕のそれより数、種類が格段に多い。
「河口大尉、ここはどこですか?」
再び部屋に戻って来た丸メガネの男に話しかけてみる
部下らしき男に何やら指示しているのか、俺の声が届いていない。
会話の中身が雑音にかき消され、よく聞こえないが、どうやら部下に食事の準備を指示しているらしい。
こんな戦時に、呑気な大尉だ。
「大尉、それでは食事は通信室に運びます」
「ああ、すまない。手間を取らせるね」
「いえ、とんでもない。何なりと申し付けてください」
河口と名乗った男は、よほどお人好しなのか。
部下に食事を運ばせるくらいで、詫びる必要などないというのに、申し訳なさそうに片手で拝むしぐさをしている。
「ああ、それからもう一つ、彼の包帯はどのくらいで取替えるのだろうか。ひどく血がにじんでいる。医師に伝えてほしい。規則は規則だ。しっかり看護するように。と」
「ハッ、畏まりました。すぐにお伝えいたします」
規則は規則とはどういう意味だ?
うがった見方をすれば、重症だから、無駄に包帯を消耗するだけとでも言いたいのか……
部下らしき男は、敬礼し、視界から消えていった。
扉を閉める音が聞こえるが、開閉で発せられる鉄扉特有の摩擦音がかなり鈍い。
どうやら相当大きな艦らしい。
最初のコメントを投稿しよう!