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「やあ、目が覚めたか。気分はどうだ? 」
「はい。頭痛がしますが、何とか大丈夫です」
「頭痛か……申し訳ないが、質問は続けさせてもらうぞ」
俺にまで『申し訳ない』とは、この男は上官の意識が無いのだろうか。それとも、常に周りに気を遣う性格なのか…… それにしても、調子が狂う。
「は、はい。私の体などお構いなく。それと、河口大尉、ここはどこですか? 」
三冊ほどの厚手のファイルを足元に置きながら、河口大尉は再び目の前にある錆びた椅子に腰かけ、少し笑みを浮かべた。
凄惨な戦場を生き抜いてきた人間は、こんな柔らかな笑みは浮かべない。
本国で安全な日々を送っていたのだろう。
「安心したまえ。ここは、武蔵だ。これだけ大きな艦だ。よほどのことがない限り、沈むことはない。」
「武蔵……それでは、旗艦は武蔵に移ったのですか? 」
「いや、旗艦は別の艦に移し、栗田艦長も既にそちらへ向かわれたよ。それにしても、あの方は山のような方だな」
「栗田艦長にお会いするのは初めてですか。そうです、艦長は、何が起こっても全く動ぜず、常に平淡でどっしりと構えておられます。我々愛宕乗組員全てにとって父のような方です。それにしても、愛宕があのような攻撃を受けるとは…… 」
青菜に塩とはよく言ったものだ。話していて、気が滅入ってくる。
愛宕が沈んだ。どうしても認めたくない。
「愛宕を攻撃したのは、ガトー級米潜水艦らしい。二艦の目撃情報がある。愛宕と共に、高雄もやられた。愛宕は残念ながら沈没。高雄は漂流したままだ」
たった二隻の潜水艦にやられたのか。
悔しさと同時に、不甲斐なさが込み上げてくる。
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