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いや、今は怒りを忘れ、冷静に対応しよう。そう言えば、大尉は『明野』と言っていたな。
「大尉、私が目覚めたとき、明野とおっしゃいましたが? 」
身を乗り出している体が、更に近づいてきた。
こっちはのけぞることもできないのだ。そこまで近づかないでもらいたい。
「明野、そう、明野だ。君は今朝、明野にいたはずの男だ。アレに遭遇して、君は我々と繋がり始めた」
「我々? 」
とっさに聞き返した。
「そう。いや、厳密にいえば、君と繋がり始めたのは清田だったがな……」
「どういう意味です?」
清田…… どこか聞き覚えのある名前だ。
いったい誰だったか。
親戚や友人ではない。いや、ちょっと待て、親戚や友人の名前が一人も出てこない。母親の名前は何だったか。顔は映像が浮かんでくるのだが、名前が出てこない。
「いや、まあ、今ここで話しても、恐らく気が動転するだけだろう。今はこうやって君と会話できていることが重要だ。時間も限られている。今は、私を信じて、見たまま、聞いたままをそのまま語ってほしい。次だ。次の出来事が重要だ。百五十二回目と言ったな?」
平和呆けの上に、自分勝手な男だ。
結局こちらの質問にはろくに答えぬまま、話を進めようとする。
だが、大尉様だ。反抗するわけにもいかない。
「はい。百五十二回目。はっきり覚えています。あの時、あおむけに空を見ておりましたが、百メートル上空辺り、そう、かなり低い高度です。そのあたりに、何かを見ました」
「それは何だ?」
いや、だから、何かと言っているということはつまり、俺自身もうまく表現できないという意味なのだが……
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