第一章

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 「わかりません。何か。としか言いようがありません。あの時は、まだ朝焼けが薄ら広がる程度の明るさしかなかったので、最初はてっきり、雲だろうと思いました。ですが、私も航空機の整備を行う人間です。あれが雲ではないことにすぐ気が付きました。そして、瞬きをぐっとこらえ、よく目を凝らすと、アレが雲などより、もっと近く、そう、低い高度を飛んでいるモノだと気づきました」  「百メートルとは、また異常に低い……」  大尉は、独り言をつぶやいたが、そのまま話を続けろと言いたげな表情でこちらを見ている。  「たぶん、あれは米軍機ではないと思います。当然、我々日本帝国海軍でも、陸軍でもない。あんな形状のものを飛行機とは呼べません」  「どんな形状だった?」  形状に関する質問で、少し躊躇した。  これでも、一通りの航空力学は学んだ身だ。  常識的に考えて、思い浮かんだ形状のものが、空を飛べるとは思えない。  俺からの返事を待っていたはずの大尉が、口を開いた。  「皿型…… だな?」  極度に感情が揺さぶられ、血の気が引くとはまさにこのことを言うのだろう。  急に後頭部が軽くなり、全身の血が、どこか別の空間に抜き取られる感じがした。  包帯に巻かれた全身だが、鳥肌が立つのもわかる。  意識の前に、体が反応した気がした。  「おっしゃる通り。あれは、皿のような形でした」  大尉は目をつぶり、腕組をした。  坊主頭には、うっすらと汗がにじんでいた。
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