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……瞬きを数え続ける。
どれほど空虚な行為か、お分かりだろう。
瞬きの回数を把握したところで、それは何の価値も生み出さず、只々続くのみである。
だが、俺はあの時、それを始めた。
五十回を超えた辺りだろうか、それは、次から次へと無関係な記憶や感情を想起させ、
自身が瞬きを数えるのを遮ろうとする。
しかしあの時、俺は数えるのを止めなかった。
いや、止めたくはなかった。
百回を超えた辺りでは、連続で瞬きさせ、混乱へ導く妙な力が働き始める。
それでも、数えるのを止めなかった。
そう、周りの人間が次々に吹き飛ばされ、死にゆくあの混乱の中で、俺は重傷を負いながらも、見事に正確に、瞬きを数え続けた。
そして、忘れもしない、百五十二回目の瞬きを数えたとき、あれは突然頭上に現れた。
一瞬の出来事だった。
米艦隊の兵器でもなければ、我々大日本帝国海軍のそれとも違う、何か異質なもの。それは見たこともない姿で怒気を帯びながら晦冥の空に浮かび、こちらをじっと凝視していたように思う。
次の瞬きをするまでのほんの僅かな秒間に、俺は、それと対峙した。
そして、百五十三回目の瞬きがゆっくりと始まる。降り始めた瞼は、どんな力をもってしても止めることはできない。
上空に浮かぶ、あの異質な存在を見ていたい。
そんな俺の意思とは無関係に強制的に始まった瞬き。
そう、百五十三回目の瞬きを数えたとき、俺の旅は始まった。
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