第一章

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 そして、百五十二回目の瞬き。回数ははっきりと覚えている。  あの瞬きを数えた直後、あれが見えた。  いや、現れたと言うほうが正しいかもしれない。  あれは確かに俺を認識し、俺に対峙するかのように存在していたと、今でも感じる。  得体の知れない何か……  米軍機ではない。ましてやわが軍の戦闘機でもない。  だが、あれは俺に対峙するように、空にいた。  そして、百五十三回目の瞬き……  直後に、俺は見知らぬ場所に立っていた。  その場所は、地面と空の区別がつかず、すべてが光で包まれた空間。風もなく匂いもない。よく目を凝らすと、足元には幾重にも重なった光る蜘蛛の糸のような線が張り巡らされ、その上にふわりと立っているのが分かる。  黄泉の国かと自らの死を疑ったが、現世と異なる場所とは思えない不思議な現実味があった。  光の色に目が慣れてきた時、視線の先に、二人の日本兵がいることに気付いた。  彼らが日本兵であるのは、着ている軍服からすぐに分かった。よく聞き取れなかったが、二人は言い争い、というより、一人がもう一人を叱責していたように思う。  ほどなくして叱責されていた方の日本兵が俺の存在に気づき、じっとこちらを凝視し始めた。激しい口調で何かを叫んでいたもう一人も、俺の方へ向き直し、腕組をして睨みつけた。俺は何が起こったのかさっぱり理解できず、ひどく狼狽し、立ち竦んでいた。  腹の底から沸き起こる全身の震えを押さえつけようと、無言のままぐっと歯を食いしばっていたが、二人の日本兵がこちらに歩き始めたのを見て、恐怖が押さえ込めなくなり、大声で怒声のような叫び声をあげた。  ……すると、この場所で目が覚めた。そう、この病室のベッドだ。
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