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気づいたときには全盛期をとうにすぎた肉体と、なくした才能の空洞を持てあます中年がいました。
ジャックのなかに満ちていた才能の、その根源たる泉は、はたりとその噴出をやめてしまったのです。ついにあっけなくも泉は枯れ果ててしまいました。
しかし、あきらめることはできません。
目にした者が哀れみを覚えるほどに、ジャックは言葉にすがりました。それは自らを鼓舞するものであり、現実を受け入れられない往生際の悪さの発露でもあり、在籍していたバンドのメンバーは自分から捨てたのだと、その声には日々磨耗していく自尊心を守るためか必死さがにじんでいました。
実力をなくして口先だけの存在に成り下がったジャックは旅に出ます。
それは、世界をめぐるもので『新たな音をさがす旅』と名づけられた、現実逃避の手段でした。
すでにジャックは、音楽を好きなだけのただの人なのです。
ジャックがいちどだけ日本まで足をのばしたことがありました。
そのとき、ジャックはデパートの屋上で子供たちに囲まれながらギターをかき鳴らしていたものですが、子供たちはただ、ギターの物珍しさから集まっただけなのでした。それでも、本気で奏でます。
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