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ジャックは演奏を再開します。もっと原初のコミュニケーションの手段として音楽を用いたのです。
「Hey let's sing!」
少女は歌います。それは歌詞こそめちゃくちゃでしたが、音程も声量もタイミングの取りかたも申しぶんのない歌唱でした。
Amazing!
ジャックのなかにあったのは感動でした。旅をしていてよかった、と強く感じました。
ひとしきり歌い終えて、少女は周囲の子供たちにはやしたてられて頬をかきます。ふと、つけていたヘアゴムを外すとジャックに差し出しました。
「やる」
ジャックは大きな手のひらで受け取ります。代わりに彼は持っていたピックを差し出しました。
「ヤル」
少女は楽しそうに笑いました。
「え、えと、さ、さんきゅー」
「oh、アリガト」
少女は親によばれて去り際に言います。
「つぎはちゃんと日本語を覚えてから来い。というか日本語の歌も作れよ! お前、才能あるよ! じゃあなー!」
少女があからさまに人を褒めたのはこれがはじめてのことです。しかし、少女とジャックがふたたびまみえることはありませんでした。
「ジャーナー!」
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