#00.born to sing

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#00.born to sing

 それは竜巻が猛威をふるったあとに残った、がれきにまみれた町から始まります。  その男の子は、ちょうど母親が救出されたとき、捜索隊員が見ている前でこの世に生を受けたのでした。  ジャックと名づけられた彼には才能がありました。それは音を楽しむ才能であり、音を連ねる才能であり、音を好きでいられる才能なのでした。ジャックが連ねた音は旋律となって人びとを楽しませます。  音楽はたしかにそこにあったのです。  ジャックは幼児から少年になり、音を愛したまま、糸を張っただけの空き缶や、布を張ったボウルはおもちゃ箱の奥にしまいこまれました。本物の楽器を与えられて少年ジャックはさらにのめり込みます。  ジャックは仲間を見つけてバンドを組みました。活動をつづけ青年になったころにはクラブを回っては音楽を奏でる日々をすごしていたのです。  そんな日々はあっという間にすぎていきました。本当に、あっという間でした。残酷なまでにあっという間だったのです。  プロとしてデビューして、それなりにヒットを飛ばして、遊び歩いてはけっして多くはないお金だけが残って、いつしかバンドを抜けることになって、それもひと昔前のことだと懐かしめるほどの時間がすぎて。
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