求愛サイン

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びっくりして振り返ると葵がオレの腕を掴んでいた。 「西くん、も。レオくんと一緒にいるの?」 その瞳はまだ色味なく、ただオレを映している。 見たことない葵を目の前に動悸を感じた。 「た、たぶん…!」 「今、どこにいるの?」 「聞いて、みる…っ」 葵にそう言うと、再びコソコソとレオに聞いた。 「今、どこにいるんだ?葵が…その。西と一緒にいるのか、って言ってる」 『さっきの場所にいる、けど。西に会うつもりか?』 「分かんない。…でも、多分」 ちらりと葵を見ると、葵はまだオレを見据えていた。 その何も映していないような瞳が怖い。 「なんか…その。葵が変だ」 『西も変だよ。二人で話させてみる?』 それでもひょうひょうとしているレオが恐ろしかった。 オレは葵と目を合わせたまま、愛想笑いを浮かべた。 「美術棟の、裏に…二人はいるって」 「行ってみてもいい?」 「……う、うん。いいよ…」 (もう…、どうにでもなれ!) 心の中で叫んで、葵と一緒に美術棟の裏を目指した。 それから。 葵が来たことでビクッと体をびくつかせた西を無視して、葵が西の前に足を進めた。 オレらがいたら、言いたいことも言えないだろう。 レオの提案でその場を退席することにした。 西も葵も、視線は逸らしたままだったけどそれに同意した。 振り返りながらオレはレオと一緒に体育館の裏手に回った。 「はぁ…!」 体育館の壁に寄り掛かって、大きくため息をつく。 レオが隣に立つのを瞳で追いながら、口を開いた。 「何かオレが緊張した」 「友の顔、引き攣ってたもんな」 鼻で笑ってくれる。 「勘違いしてるって分かってたんなら教えてくれよ!」 「人から聞いたって分かったら、深崎が嫌かと思って」 「変なところで気を遣ってんな!」 「まぁそれにしても可愛い奴らだよな。鼻と鼻がぶつかったくらいで」 「お前は許可なくオレにキスしたけどな」 「お前はそれでも笑ってたよな。“問題ない”とか言って。色気のいの字もなく」 …そうでした。 今思い返すとほんと、色気のねー自分が恥ずかしくなる。 もじもじと俯くと、隣に立っていたレオがオレの前に立ち塞がった。 体育館の壁に手をつく。
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