求愛サイン

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熱い体に冷たいキスが心地いい。 触れられるだけでピクリと動いてしまう肩が恥ずかしくて、目を瞑った。 その大きな手のひらがオレの頬を掴んだ。 自分へと顔を向けさせるように、力強く。 でも、優しかった。 「………ふ、ぁ…」 向けられた顔に戸惑って、オレは目を開けた。 この視線の先に、計りしれないような綺麗な顔があって、瞳があって、その瞳は冷たくも熱くて…。 遠くに聞こえる歓声や、遠くに感じる熱気に負けないくらい、心は熱く焦がれていた。 見つめられると呼吸が苦しくなって。 目と目が合うと想いが溢れてきて。 いつか葵も、…西も。 こういう気持ちを知ってくれたらいいのに。 大切な誰かと出逢って、誰かを全力で好きだと感じて、そして伝え合う。 想い合う。 実際のところ、まだまだそんな気持ちに翻弄されまくりのオレだけど、これだけは分かる。 この手のひらだけは手放したくない。 ずっとずっとオレだけのものでいてほしい。 あってほしい。 頬に触れるその手のひらに、そっと手を合わせた。 見つめ合ったまま、優しく手のひらが重なり合う。 そんな行動を取ったオレに、レオの表情が少しだけ動いた。 だけどまだまだ変化は見えなくて。 触れ合うだけでこんなにドキドキしているのはオレだけなの? なんて、喉まで出かかって言うのはやめる。 それは悔しいから。 平然としているこいつの前で、そんな甘いことは言ってやんねー! 『好き』って言葉で十分だ。 こいつはそれでも平然としてるけど…。 ゆっくりと背を曲げて、レオの顔が目の前にやってくる。 これは首筋に触れるキスじゃない。 唇と唇に触れるサイン。 そっと目を閉じた。 その唇だけを感じたくて。 この鼓動だけを感じたくて。 冷たい唇がオレをさらう。 このまま、どこかへ連れていかれる。
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