求愛サイン

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美術棟の前は、いつ来ても不思議な空気が漂っている気がした。 それに今日は校庭から、歓喜高まる声が響く。 湿っぽい風がオレらの頬を掠めて、夏と秋の狭間を感じさせていた。 「あ、れ…?」 話し合いをしていたはずの二人の姿がどこにもなかった。 レオへと視線を向けると、レオも少し意表を突かれたようなそんな顔をしていた。 「いない…?」 「無事に話し合いに折り合いがついたとか」 「んなわけないだろ!あの二人だぞ…!? ……うそ、折り合いついちゃったの…!?」 レオの言葉を否定した後、オレはそれを受け入れた。 葵と西が仲良くなっちゃうってこと、ある!? 鼻と鼻がぶつかったという現実を二人が受け入れたってこと!? 「ま、いないなら仕方ないな。校庭に帰る?それともここでさっきの続きする?」 「ッ!!!」 しれっとそんなことを言うレオに、カッと頬を染めた。 んなの、もちろん…っ! 「帰るに決まってる!!」 ズカズカと校庭目指して歩くオレに、レオが偉そうな笑みをこぼしているとは気づかない。 葵と西のことも気になるけど、オレは自分のことで手一杯。 ―――だから、まさか。 「…っ…!!」 美術棟の裏で大変なことが起こっているなんて、この時オレ達には想像もつかなかった。 「それにしても、鼻と鼻がぶつかったくらいで可愛い奴らだよな」 「…、っはは。ホントだよな!可愛いよな!」 「お前とは大違い」 「―――ッガ!? どういうことだよ!!」 「そういう顔が、だよ」 「っ!!」 「………。」 「あっ、今、嘘だよって顔しただろ!」 「―――してねーよ。」 「したよ!!」 「…うざ」 「あ、認めたな!へへっ、レオって素直じゃないよな」 「…………。」 「ぷぎゃっ!!」 目の据わったレオに意地悪されながら、校庭を目前にしていた。 太陽の落ち着いた空が頭上を巡る。 少しだけ眩しい世界に目を細めていた。
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