求愛サイン

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ちゃんと確認すればよかった。 ちゃんと声をかけて、探せばよかった。 たら、れば、のような後悔が脳裏を掠める。 どうか葵と西の間に、修復不可能な亀裂が入っていませんように…! そう願って、地面を蹴っていた。 軽く息が切れて、美術棟を視界に捉える。 「…葵…っ…!!」 すると、さっきはなかったその姿が美術棟の入口の段差に腰を下ろしていた。 良かった、隣にはちゃんと西の姿があった…。 「西!?」 西の姿を見て、オレは目を丸くした。 その綺麗な顔立ちに、似合わない血の跡。 唇が切れて、少しだけ頬が腫れている。 西はオレが来たことに気がつくと、めんどくさそうに体を背けた。 そして言う。 「こいつ、どっか連れてって」 「え…!?」 「安全なとこ、連れてってよ」 西の言葉を聞いて、ゾクッとした。 こうなって初めて、ちゃんと葵の顔を見た。 葵の頬は涙で濡れていた。 西の綺麗な顔に傷がついていた。 また、葵のことで、変な奴らに絡まれた、のか…? 言葉を失くして、葵を見つめた。 葵は濡れた瞳を携えたまま、西を強く見つめていた。 「あんたを置いて行けるわけないでしょ!? あんたも連れていく…!」 そう言って、葵が西の腕を掴んだ。 意外だった。 たとえこんな状況であったとしても。 葵が男の体に触れるなんて、今までありえなかった。 何が起こったのか、説明がなくても明白だった。 キスをしたらしい二人を追ってか、たまたまか、葵ファンの奴らがやってきた。 葵が絡まれたのか、それとも西への嫉妬か、西がやられた。 葵はそれでも逃げ出さなかった。 もしかしたら西が、守ってくれたのかもしれない。 二人の腕が触れ合っていた。 西に触れる葵も。 葵に触れられる西も。 さっき見た時とは明らかに何かが違った。 「耳元で叫ぶなよ」と言って、西がよろめきながら立ち上がった。 「3対1で、ボコボコよ」 開いた口が塞がらないまま、見つめていたオレに葵がぼやいた。 ボコボコになったのは、どっちだ? 西か?それとも相手3人か? 西の姿を見る限り、もしかしたら後者なのかもしれない。 そう、思った。
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