第1章

2/4
前へ
/4ページ
次へ
『ちょうちょってきれいだね!お母さん!』 『どうして綺麗だと思うの?』 『だって、まっくらな所にいるもの!れいこもちょうちょさんみたいにまっくらでお月さまがでてる所にずっといたいなぁー!』 ずっと昔、私がまだ5才ぐらいの時に母に言った言葉。 母と初めて出掛けた日。 母はいつも忙しく、私は構ってもらった思い出が余りない。 だから、その日はとても嬉しかった事を覚えている。 母はいつも夜に仕事に行く。 なので、 初めて母と出掛ける事が出来て、しかも仕事をしている時間を私が独り占め出来ている事に子供だった私は優越感に浸っていた。 母と出掛けた場所は私がいつも一人で行っていた噴水がある大広場だった。 自然がいっぱいで私は好きだった。一人でも此処に居れば寂しくなかった。 だけど、 一度でいいから、母と来てみたかった。 一度でいいから、「ほら、見てみて!自然がいっぱいで綺麗でしょ?」と子供らしく言ってみたかった。 一度でいいから、お母さんに甘えてみたかった。 私がずっとこの思い出を覚えている理由は二つある。 一つ目は、私がただ無垢な子供でただ、思った事を言った時の母のあの、笑っているけれど、悲しそうな、虚しそうな顔が今でも忘れられないからだ。 二つ目は、この、母とのお出かけが、母と喋った記憶が増える事は無かったからだ。 母に会う事は二度と無かった。 最後に見た、母の顔は子供にでも判るようなとても複雑で儚く消えてしまいそうな顔だった…
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加