二 出雲の頭領

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 その後も、出雲五箇郷と出雲周辺の(さと)や村から、多くの人々が、木次館(きすきやかた)布都斯(ふつし)下春(したはる)のもとと西利太館(せりたやかた)和仁(わに)のもとを訪れ、布都斯を頭領(とうりょう)と仰ぎ、忠誠を示した。 「他の郷の衆もここに訪ねてくる。その者たちに、あまった作物や産物を交換できぬか話せ。この広場に持ちよって交換してもよいぞ。交換せぬなら、あまった物を蓄えろ。蓄える方法は・・・」  訪ねた人々に、布都斯と下春は布都(ふつ)乾那有(かんだある)たちから教えられた、作物を備蓄して商う方法を説いた。  人々は他の郷の人々と作物や産物について語りあい、帰っていった。  その後まもなく、二人を訪ねた人々が木次館の広場や鉄穴衆(んなしゅう)の西利太館の広場で、持ちよった作物や産物を交換するようになった。  これらの人々の中に、よその村人から、 「この穀物一袋を、麻布一枚と交換したい」  と頼まれると、わずかな見返りで引き受ける者が現れた。  この者は他の村人と交渉し、穀物と引き換えに麻布一枚と端切れを手に入れ、頼まれた村人に麻布一枚をとどけて、見返りの穀物と端切れを己の物にした。端切れも何枚か集まれば、それなりの(きぬ)に変身する。  このように、見返りを得て物品を一手にひき受け、他の村人たちと交渉してより多くの物と交換し、頼まれた分だけを村人に渡して残りを己の利益にする、商いの要領を得た者も現れたのである。  二月たらずで出雲、石見(いわみ)伯岐(ほうき)、隠岐の百八十六の村から、豪族や郷長(ささとおさ)村長(むらおさ)たちが木次館や鉄穴衆の西利太館を訪れた。父・布都が語ったとおりになった。
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