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「産物がないなら、あまった穀物や作物を濡らさぬように、また、鼠に食われぬようにして蓄えよ。そして、出雲や石見の海辺の衆に、他の作物や産物と交換できぬか、と話せ。かびの生えた穀物は交換できぬぞ。腐りやすい物は乾く所に干して蓄えよ」
そう布都斯が言った。
村長のひとりがこまったように答える。
「食い物があまることはねえです」
「米を作らぬのか。種籾はあるか」
「ありますが、米を作れる田畑が少ねえです」
長たちは山あいの、日当たりの悪い田畑を考えている。
「日が当たらず、水が温まらぬのだな。ならば・・・」
話しながら布都斯が裸足で広場へ降りた。人差し指で地面に山の絵を描き、
「・・・南側の、水が豊かな田を、このようにするのだ。いちばん上の田で水を温め、順に下へ流す・・・」
斜面に棚田を描いた。
一瞬に、長たちの顔が明るくなった。
「田を造りなおすなら、農具が必要でしょう。鉄穴衆から鍬や鋤を分けてもらいなさい」
下春は広場に降りてそう言った。
須佐郷は貧しく、見返りを払う余裕がない
一瞬に、村長たちの顔色が曇った。
「豊作の時に見返りを払えばよいのだ。そのように鉄穴衆の村上に決めてもらうゆえ、皆はなにも心配するな」
布都斯が和仁を示した。
長たちは、ほっ、とため息をついた。
「ありがとうございまする」
額を地面にこすりつけてひれ伏した。
「待て、待て。農具を商うのは鉄穴衆だ。礼はこの鉄穴衆の村上に言えばよい」
布都斯が和仁を示した。
長たちは顔を上げた。こんどは和仁に深々とひれ伏している。
「助けてほしいことがあったら、また、いつでも来なさい」
そう言う下春と控えている和仁に、
「ははあっ。わしらは皆様に従いまするっ」
ふたたび、ひれ伏し、顔を上げると
「布都斯の頭領様。これからも力をお貸しくださりませっ」
また地面にひれ伏した。
「俺は頭領ではない」
布都斯は照れ臭そうに困り顔だ。
「いえ、いえ、わしらの頭領ですっ」と村長たち。
布都斯と村長たちとのやりとりに、和仁は笑いをこらえた。
「それでは、村上。須佐郷の衆に鋤と鍬を商ってくれ。ただし、見返りは豊作の時にしてほしい」
布都斯が和仁と下春に目配せした。
「わかりました。特別に、そのように取りはからいまする」
和仁の言葉を聞いて、村長たちはふたたび地面にひれ伏した。
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