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種蒔きが終わった。
騎馬隊の本格的な訓練がはじまり、須我政庁と須佐支庁の建設がはじまると、鉄穴衆の館に、石見豪族・大森が数騎をひきいて布都斯たちを訪ねてきた。
「布都斯殿。下春殿。和仁殿。我らは皆様に従いまする。この銀を、お納めくだされ・・・」
手下を従え広場に座った大森は、広間の南廂に座る布都斯たちに深々とお辞儀し、手下に、銀塊が入った拳二つ分ほどの袋を三つ差し出させた。
麻の貫頭衣の上に皮衣の袖なしを着た大森は、和仁より歳上に見えた。伸びた髪を後ろで束ねた髭面の中に、濃い眉とぎょろっとした目、横へ広がった大きな鼻があり、薄笑いを浮かべた風貌は、一見、蝦夷の山賊を思わせた。
手下が銀塊の袋を簀子に置いて広場にもどると、大森は、
「そして、我らの頭領として遠呂智に代わる商いを、一日も早く石見の西端まで広めくだされ」
ふたたび深々とお辞儀した。
大森を見る下春は、
『この男、ただ、忠誠を示しに来たのではない。背後で誰かが動いているはずだ・・・』
と思った。案の定、布都斯から気配が消えた。
しばらくして布都斯は
「出雲、石見、隠岐、伯岐を治めるため、騎馬兵百六十騎を整えた。各地を監視防備し、農具を商う。心配にはおよばぬ」
と言った。
『やはり、大森は我らを探りにきた・・・。
いずれ、全てが諸国へ知れる。ありのまま話せば、大森を背後で操る者も妙な動きをしなくなる・・・。
布都斯もそう読んだか・・・』
そう下春は思った。
「頼もしいかぎりにございまする。これで、安心して石見へ帰れまする」
心にもないことを言って大森は帰った。
「我らを警戒する豪族が、大森を使って我らを探っている・・・。
商いにかこつけて、騎馬隊に大森の背後を探らせよう。田植え前の今なら、鉄穴衆の商いと思って、誰も騎馬隊を疑わぬ。
銑物と農具だけを商わせよ」
布都斯は和仁と下春に指示した。鉄穴衆は毎年、春と秋に農具を商っている。
「承知しました。東西に十名ずつを商いに出しましょう。
下春殿。蹈鞴衆の手配を頼みまする」
「承知しました」
和仁と下春は同意した。
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