一 木次の村上

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「それもある・・・」  板壁と茅束にそった土間の五か所に、天井までとどく丸太が二本ずつ立てられ、薪が土間の長手方向へ転がり落ちぬよう防いでいる。  布都斯は薪の長さと太さを確認して、板壁と茅束にもたれすぎぬように、広間側へ倒れぬように薪を積んだ。 「予矛珠が手下を使って耕した田畑からは、せいぜい四十袋の穀物しかとれませぬ。予矛珠の館人と手下の、総勢二十人が暮らせたのは、遠呂智から得た穀物だけでなく、なにかにつけて郷の衆から穀物を集めていたからです。もとは郷の衆の穀物なれば、返すのが当然ですよ」  たたんだ衣を葛籠に入れ、稲はすっと立ちあがった。衣や夜具のあいだを抜け、土間にそった廊へ歩くと、鍋や桶がならぶ上り框に立って、音をたてずに土間の草履をはいた。 「・・・冬じたくも整わぬ、この館で暮らすことになって・・・」  そう言いかけた時、布都斯は肩に暖かい手を感じた。 「あなたの実家から衣と夜具、根菜と四袋の穀物をいただきました。叔父上様からはたくさんの干物と塩です。穀物は私の実家と下春殿の実家の分をあわせて、十袋になりました。皆が雪解けまで暮らせます。それに、広間にも対屋にも大きな炉があって、あなたが薪を作ってくれるから、暖がとれます・・・」  稲は布都斯の肩に乗せた手を、布都斯の脇の下から胸へまわして、重ね着した貫頭衣の汗ばんだ背に抱きついた。布都斯の背に頬ずりしている。
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