一 木次の村上

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「・・・それに・・・」 「それに、なんだ」 「・・・(しとね)をともにしていると暖かで、熱いくらい・・・」 「(むつみ)ごとのことか」 「ばかっ・・・」  背に押しつけた(いね)の頬が熱くなった。  布都斯(ふつし)は背負うように稲の背に手をまわし、稲の身体を己の背に押しつけた。 「熱い褥になるよう、うまい夕餉(ゆうげ)を作ってくれ」 「うん・・・」  布都斯は身体をまわして向きを変え、稲を抱きしめた。外で風の音がする。 「風がでてきた。冷えてきたから雪になるかも知れぬ。日が暮れるまでに、もう一山、薪を割っておく」 「気をつけてね」  布都斯の耳元で稲がささやいた。 「わかった」  そっと唇を重ねると、布都斯は、 「対屋(たいのや)まで、背負ってやる」  と言って稲を背負った。 「あなたっ」  笑いながら、稲は布都斯の背にしがみつき、対屋の(ろう)に降りた。 「もう少しかたづけてから、夕餉を作ります」 「頼む・・・」  稲は布都斯に頬ずりして手を握りしめ、布都斯を外へ送りだし、 『早く冬支度をすませ、布都斯に(まつりごと)を考えさせねば・・・』  と思った。
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