一 木次の村上

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 戸外に人の気配を感じ、東対屋(ひがしたいのや)布都斯(ふつし)(しとね)から起きあがった。布都斯の気配を感じ、(いね)が目を覚ました。 「どうしたのですか」  「外に誰か来ている・・・。すまぬが芋粥(いもがゆ)を多く作ってくれ。皆に食わせたい」  耳を澄ますように、稲は気配を探った。 「・・・五人ほどですね・・・」 「そうらしい・・・」  早朝は、館にいても厳しい寒さである。布都斯は炉の残り火を持つと、東対屋の遣戸(やりど)を開けた。土間を渡り、稲とともに広間へ出た。  広間の炉で残り火を大きく燃やし、広間の北にある下屋(しものや)へ火種を運び、かまどに火を燃やした。 「様子を見てくる」 「外で立ち話は身体が冷えます。皆を広間に入れなさいませ」  芋粥を作る用意をしながら、稲が笑顔を見せた。 「そうしよう」  布都斯は広間へもどった。 「姉上。村人が訪ねてきている。稲といっしょに朝餉を作ってくれぬか」 「やはり、そうなのかい。承知したよ」  炉の火に薪を入れながら、布都斯は起きてきた芙美(ふみ)に事情を話し、広間の東側中ほどの妻戸(つまど)から、東廂(ひさし)簀子(すのこ)へ出た。  足裏に簀子の霜を感じながら南へ歩き、柱の陰から広場を見た。  広場で下春(したはる)が村人と話していた。村人の背後に、荷を積んだ馬が十頭いて、四人の村人が馬から袋を降ろしている。布都斯は柱の陰から村人の話に耳を傾けた。  しばらくすると、布都斯は何事もなかったように、 「皆、どうした。中に入って火にあたれっ」  村人たちを広間へ手招きした。
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