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節分から二月ほどが過ぎた。
朝餉の刻。
炉の近くに座って芋粥をよそっていた稲が、器を置いて下屋へ走った。近頃、煮炊きする匂いをかいだけで吐き気をもよおす。
「夜はまだ冷える。風邪かも知れぬ。稲、様子を診よう・・・」
稲の身を案じつつ、布都斯は流しにうつむく稲の背に手を当てた。
稲の体調に異常はなさそうであるが、稲の他にも気配を感じる。
布都斯は、
『もしかして・・・』
と思った。
「子ができたのではないか」
布都斯の思いを語るように芙美が言った。布都斯のあとを追って、芙美と下春も下屋に来ていた。
『言われてみれば、月のものも遅れている』
と稲は思った。
「実家の母に聞いてみます」
「子ができたなら、最初が大事だ。俺が母上に聞いてくる・・・。いや、女御衆でなければわからぬことゆえ、姉上に行ってもらおう・・・。いや、姉上は稲を診ていてくれ。やはり、俺が・・・」
「あなた、おちついてください」
あわてている布都斯を、稲が笑顔で見あげている。
「うっ・・・、稲を見ていたら・・・」
芙美が口を押さえて流しへうずくまった。
「芙美、戯れはならぬぞっ」
下春は芙美をたしなめたが、
「もしかして、お前も・・・」
思いあたることがあった。
「その、もしか、かも知れぬ・・・」
稲と芙美の背に手を当てたまま、布都斯は言った。
なんとも言い表しようのない気持ちが、布都斯と下春に湧いてきた。父親になるとは妙な気分である。
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