二 出雲の頭領

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二 出雲の頭領

 布都斯(ふつし)下春(したはる)、二十歳の春。  春になり、出雲五箇郷と近隣の(さと)の行き来が増えた。  晴れた昼さがり。 「布都斯様と下春様は、おらたちでも会ってくれるか」  西利太(せりた)鉄穴衆(かんなしゅう)の館に、三人の男が一頭の馬を引いて現れた。  門番の鉄穴衆は布都斯と下春から、 『訪ねてくる者たち皆に広場で会う』  と言われている。 「お二人は誰にでも会う。ついて来い・・・」  三人は垢か日焼けか見分けられぬほど汚れていた。着ている貫頭衣も白髪まじりの汚れた髪も、みな擦り切れて、今にも朽ちそうである。 『それにしても汚いやつらだ』  と思いつつ、門番は三人を広場へ導いた。 「どこから来た。お二人がここにいるのがよくわかったな」 「須佐郷(すさのさと)から来た。おらたちゃ須佐郷で村長(むらおさ)をしてる。  木次(きすき)の館で、布都斯様と下春様は西利太の鉄穴衆の館にいる、と言われた」  三人が答えた。 「そうか。半日も歩いてきたか・・・。ここで、待っていてくれ」  三人を広場で待たせ、門番は小走りに館の北へ走り、北随身所(きたずいしんどころ)を改築した蹈鞴場(たたらば)へ、須佐郷の村長たちが訪ねてきたことを知らせた。 「わかった。すぐに会おう。  下春。和仁(わに)。作業を他の者に任せて、ともに来てくれ」 「承知した。  皆は、炎が黄金色になるように炭を入れろ。  炭を入れすぎて炎が赤くなったら、砂鉄を入れて蹈鞴(たたら)の風をひかえ、黄金色の炎があがるようにせよ」  下春と和仁は玉鋼(たまはがね)を作る鉄穴衆を残し、布都斯とともに蹈鞴場(たたらば)を出た。
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