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第一夜
1
ある晩の事。
こんな夢を見た。
2
ふと気が付くと、何だかよく分からない場所に居た。
目の前には、何かの漫画で見た様な木造の日本家屋が在って、見渡すと周りにも、似たような木で出来た平屋が在った。まるで昭和三十
年代みたいな町並みだ。遠くからは子供の遊ぶ声や鴉の声も聞こえる。子供が一人、僕のそばを走っていった。そう言えば時刻は夕方だ。暗くなる前に家に帰らなくてはいけないのだろう。紅く染まっている町並みは既に暗くなり始めている。きっと、此の町の夜は本当に暗いのだろう。ほんの少しの街頭の灯りしか、此の町には無いのだろう。
目に悪い眩しさのLEDも、不健全なネオンの輝きも、現実味溢れる高層ビルやコンビニの光も、此処には無いのだろう。
星と月の本当の輝きが有るから、そんな物は要らないのだろう。
そう考えると、満天の夜空の輝きと引き換えに得たのが目に悪い人工の光とは、文明とは随分と効率が悪い。
僕がそんな風に懐古的な気分に浸っていると(一応宣言しておくが、僕は別に普段から懐古主義者と言うわけではない)後ろから話しかけられた。
「お客さんかな?」
「え?」
振り向くと、狐面の女の人が立って居た。
足元まで伸ばした黒髪と、明治時代のような和装。そして吹かしたキセル。あと和服が着崩れする程の巨乳。
とても胡散臭い。せめて顔くらい見せた方が良いと思う。
そして、僕は客ではない。
「えっと、僕は客では在りませんけど……」
「私の後ろを良く御覧。此処は私の店の前。だから、此処に立ってた君は客だよ。中に入ると良い」
彼女の後ろを見てみると、成る程、後ろの建物には「夢御堂」とあった。確かに此処は彼女の店らしい。
「……ゆめ……おどう?」
「君の頭には豆腐が詰まって在るのかい?『ゆめみどう』だよ」
「豆腐ですか……」
「大丈夫。絹ごしだから」
何が大丈夫なのか理解出来ないのは、僕の頭の中身が豆腐だからなのだろう。
「兎角、私は立ち話が嫌いだ」
彼女はそう言って、扉を閉めずに店の中に入った。僕は其の後をついて行くしかなかった。
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