25 抱擁-1

35/38
前へ
/38ページ
次へ
パチリ、と、 丸メガネの奥のつぶらな瞳から、きれいなウインクを一つ繰り出すと、 「それでは、また」 バイバイ、と、手を振って、風間さんは、病室から出て行った。 遠ざかる、のんびりとした、足音。 賑やかな気配が消えて、 シンと、静まり返る深夜の病室に残されたのは、毒気を抜かれた、課長と私。 どちらからともなく視線を合わせれば、自然と、笑みがこぼれた。 ――助けてくれて、ありがとう、探偵さん。 それに、素敵なアドバイスも。 『君は、君自身の言葉で、説明する責任がある』 あれは、たぶん、課長に対してだけ向けられた言葉ではない気がする。 『君は、君自身の言葉で、説明を求めていいんだよ』 『勇気を出して聞いてごらん』 そう、言ってくれたんじゃないだろうか。 なんて、勝手な思い込みかもしれないけど。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

667人が本棚に入れています
本棚に追加