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「料理できるの?」
「先輩ほどじゃないですけどそれなりに。うちも母子家庭だった期間が長いもので、一通りの家事ならなんとか」
先輩のお弁当おいしかったです、と付け足して浦野は適当な食材を取り出した。
父さん以外の人に美味しいって言ってもらったの、初めてかもしれない。
気恥しくなって机に顔を伏せ、小声でありがとうと呟く。誰だって褒められて悪い気はしないだろう。
そこでふと気づいた。
俺、こいつのこと何にも知らないや。
いつから母子家庭だったのか、とか、どこの高校に行って何してたんだろうとか。
母子家庭についてはわざわざ問いただすようなことでもないけど、中学を卒業してからの空白の時間はお互い知っていることなんてほとんどない。
下手すりゃ中学時代だって分からないことだらけだ。
……考え出したらめちゃくちゃ気になってきた。
「な、浦野」
「はーい」
「お前さ、高校どこ行ってたの?部活とかやってた?」
何気なく問いかけただけだった。
コンロに小さな鍋とフライパンをかけていた浦野は一瞬その動きを止めた。
だけどすぐに振り返りもせず作業を続け、いつもと変わらない軽い調子で答えだす。
「東高に行ってましたよ。家から近かったんで。部活はまあ、サッカーを少しだけ」
「お前上手かったもんな。……下手な俺のこと、散々バカにしてくれやがって」
「その節はすみません……」
別に嫌味で言ったわけじゃないんだけど。嘘、ちょっと根に持ってる。
俺にセンスも運動神経もなかったのは本当だから気にするほどじゃないよ。
そう笑い飛ばそうとしたが、浦野が今にも消え入りそうな超えでごめんなさいと言ったので既のところで呑み込んだ。
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