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数回咳き込んでから自分を落ち着かせるために深呼吸をしてみる。
あれから一度も会っていない。
連絡すらないんだ。俺さえ忘れてしまえばそれですべて丸く収まる。
じんわりと体温を吸収してぬるくなっていくフローリングの床に手をついて、吹っ切るように立ち上がった。
若干足元は覚束ないが今度は倒れることはない。
まだその場に座り込んだままの浦野に掌を差し出して、ただ俺を見上げるだけのやつの腕を引っ張りあげた。
「えと、先輩……」
「ごめん、もういいから。お前だけ責めるのもおかしな話だろ」
「……」
「納得してないって顔。本人がいいって言ってるんだからそこは素直に訊いとけよ。それよりお腹すいたからご飯食べたい」
ちょっと強引すぎるかもしれないけどこれ以上この話を続けるのは嫌だった。
これから兄弟としてやっていかなきゃいけないのに、昔のことで仲が拗れてそれが親にまで影響するのは本意じゃない。
椅子を起こして座りなおす。
テレビをつけて適当にチャンネルをまわす俺を見て諦めたのか、浦野は「お粥でいいですか?」と訊いてきたので頷いておいた。
キッチンに戻る背を頬杖をつきながら眺めて、何となくまたサッカーやってみたいなぁとぼんやり考えた。
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