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「眠れん……」
ため息をひとつ。
元々寝付きはいいはずだが目はばっちり覚めている。
これじゃあ治るもんも治らない。
風邪を引いたときは睡眠をとるのが1番なのに。
いっそのこと羊でも数えるべきか、と頭の中で青々とした牧場に羊がたくさんいる情景を想像しようとしたそのとき。
コンコンと控えめなノック音が響いて、それからゆっくりとドアが開かれた。
見ると浦野が少しだけ顔を覗かせていた。
視線があえば驚いたように目を開く。
「起きてたんですか?」
「いや、全然寝れなくて今から羊数えようとしてた」
「羊?」
首を傾げて数秒考えたあと「ああ」と吹き出した。笑うな、俺は至って真剣なんだぞ。
可笑しそうにしている浦野に背を向けると少し慌てたような声が返ってきた。
「別に馬鹿にしたわけじゃないですよ。拗ねないでください」
「拗ねてない」
「じゃあ不貞腐れないでください」
「不貞腐れてもないし、どっちも似たような意味じゃん」
俺はこいつにどれだけ子供扱いされてるんだ。もう20歳越えてるんだぞ。立派な大人だ。
……いや、こいつ相手だとちょっと大人げない気がしないでもないけど。
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