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「とにかく、俺は拗ねても不貞腐れてもないからそこんとこ勘違いするなよ」
「はいはい。じゃあ眠れない先輩のためにホットミルクでもつくってきますかね」
言い終わらないうちにさっさと踵を返して階段を降りていく浦野。
遠慮すると思って先に行動したんだろうか。
5分と経たないうちに戻ってきた浦野の手にはマグカップが握られていて、中からは牛乳の独特の匂いと湯気が立ち上っていた。
差し出されたカップを両手で包むようにして受け取った。じんわりと熱が伝わってくる。
「ありがとう」
「いーえ。そういえば気になったんですけど、なんであんなに牛乳があるんですか?……もしかして身長気にして」
「殴るぞ」
「わー暴力はんたーい」
握りこぶしをつくってみせれば棒読みで訴えられた。
うるさい黙れ。気にしてて悪いか。
冷蔵庫に並べられたいくつもの牛乳パックを思い浮かべて舌打ちする。
ていうか料理でも使うし。あって損はないだろ。
「それにしても、先輩は偉いですね」
「……何が?」
突然、何の脈略もなく言われた言葉に訝しげに問い返す。
偉い、ってどういうことだろう。俺何かしたっけ。
「だって、今までずっと風邪引いたときはひとりで留守番してたんでしょ?自分のことは自分でやって。俺は母さんが仕事休んでまで付きっきりで看病してくれてたから、先輩みたいにはできないし」
だから偉いなぁって。
微笑む浦野は俺の髪を優しく梳く。
まるで壊れ物を扱うかのような手つきに心臓の奥がグッと掴まれたような感覚がして、小さい子供がひとりで留守番してたのを褒めるかのような口調に、俺は。
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