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それからああだこうだと話しているうちにだんだんと眠たくなってきて、舟を漕ぎだしたあたりで持っていたマグカップを取り上げられた。
そのままベッドに横たえられ布団をかけられる。
体を包む温もりに自然と意識を手放そうとすると、ベッドの足のあたりが沈む感覚がした。
多分そこに座ったんだろう。
なんとなく両足を擦り付けるようにすれば、笑いながら一定の間隔でぽんぽんと優しく叩かれた。
「今日はずいぶんと甘えん坊ですね。明日は雨かなぁ」
「ばーか……」
呂律が回らない。
どんどん呑み込まれていく意識に、本当に雨でも降りそうだなと苦笑した。
「ただいまー」
聞こえてきた声にはっとする。
どうやら自分も少し眠っていたらしい。
慧介は環が気持ち良さそうに寝ているのを確認し、慌てて部屋のドアから顔を出した。
「おかえりなさい」
「慧介くん。ごめんね、環の様子はどうかな?」
「ぐっすり眠ってますよ。朝よりは熱も下がってます」
「そう、ありがとう」
笑った顔は環によく似ていて、目の前に立ったその人の身長が自分より低いことに気づき親子だなぁと微笑ましくなった。
そうだ、と何か思い出したように言う彼の手にはコンビニの袋が握られている。
「プリン買ってきたんだけど食べるかな?」
「ありがとうございます。ここで食べてもいいですか?」
「勿論。美紀子さんは少し遅くなるみたいなんだ。環が起きたら教えてくれるかな」
「分かりました」
袋を受け取って再びベッドの方に戻る。
床に腰をおろして環の寝顔を覗きこんだ。
いつもより赤い頬と浅い呼吸に眉を下げ、頭を数回撫でてみる。
「はやく良くなってくださいね、先輩」
こっそりと額に落としたキスは、誰にも秘密ということで。
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