「なまえ」

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「行ってきまーす」 「ふたりとも気をつけてね」 玄関で父さんと美紀子さんに見送られ、俺と浦野は家を出る。 あの風邪を引いた日から今日で1週間。 結局熱は暫く出たままで、学校に行けるようになったのはつい3日ほど前からだ。 その間にあったことといえば、うちが正式に4人家族になったことだろうか。 母さんと呼べる人がご飯をつくってくれて、ふたりだけで囲んでいた食卓も賑やかになって、そうやって少しずつだけど距離を縮めている。 「じゃあ俺、こっちのホームだから」 「あ、はい。それじゃあまた」 浦野とこうして一緒に駅まで行くのももう日課となりつつあった。 時間があえば帰りも一緒だし、何だかんだ行動を共にしている。 「変わったなぁ」 環境ももちろんそうだけど、何より俺自身もかなり変わった。 以前なら顔をあわせるのさえ嫌だったのに。 進歩なのかそうじゃないのか。 ホームに滑り込んできた電車に乗り込んで、朝の通勤ラッシュにうんざりしながら吊革に掴まった。
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