「なまえ」

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「……名前」 「え?」 「呼び捨てでいい。敬語もいらない」 兄弟っぽいついでだ。 前までならしんでも嫌だったけれど、今なら別にいいかなと思った。 ぽかんとしている浦野の額を軽く小突いてやると驚いたような訝しむような顔をする。どんな心境の変化か訊きたそうだな。 暫く沈黙したあとそろそろ口を開いて、「……環?」と確かめるように小さく呟いた。 「なに?」 「えー……?た、環?」 「おー」 「ええ……?」 いかにも混乱しています、なんて声をあげる浦野にとうとう吹き出してしまった。 それでもなお恐る恐るといった風に名前を呼ぶのでからかうように相槌を打つ。 あまりにも呼びづらそうに繰り返すその姿がなんだか面白かった。 「無理なら強制しないけど」 「そんなことない!……です」 「ほら敬語」 言ったそばからこれだ。 しまったと顔に書いてあるのを見て腹を抱えて笑いたくなる。生意気でも存外不器用なところはかわいらしい。
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