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昨年、40歳という若さで理事長に就任。
長身に甘いマスク、足も長くてモデルのような外見も然ることながら、その発想力で教育界以外からも注目を浴びている。
この前は新聞の中一面にインタビュー記事が載っていた。
桜木理事長は元々、この百合ヶ丘学園の跡取りだ。
普通であれば2代目3代目になると、聞こえは悪いけど、“お飾り”なところが多い。
そこを、気持ち良いほど裏切る容姿と統率力が保護者受けし、今年の入学志願者は前年の2.5倍だった。
皺一つない高級スーツを着こなし、お迎えの車で踏ん反り返っていてもよさそうなのに、毎朝、学生たちに混じって歩いて職場に向かう姿は好感触以外の何ものでもない。
王子様と並んで、ママさんたちの朝のオアシス。心をヒタヒタに潤わせてくれる存在なのだ。
私ももちろんオアシス同好会の一人であることは、間違いない。
理事長が通り過ぎる瞬間だけ、そこが華やぐ。春の柔らかい日差しに花々が咲き乱れ、蝶が舞い踊る。まさに“百花繚乱”。
過ぎ去れば一瞬で朝の殺伐とした、彩りもない荒地と化す…
そう、ここは“東京砂漠”。
人はみな、明日のオアシスを求めて彷徨う旅人だ。少なくとも私は…
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