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あいにく先読みする力に恵まれなかった私は、いつも、嫌だな~と追い込まれてから立ち上がるタイプだ。計画を立てたことなんてない。立て方なんて知らない。
今まではどうにか、なってきた。
だとしても、今日はざっくりでも考えておくべきだったような…
ゴチャゴチャと慣れない反省をしていて、完全に油断していた。
相手はタチの悪いイタズラ大好きっ子だったことを忘れて…
ギシッと、ベッドの軋む音がする。
意識がそっちに向いた時には遅かった。
自分の手首を藤崎くんが掴んでいる。
「え」
あまりの素早さに逃げることさえ出来なかった。
ゴクンと、生唾を飲む。
まさか…
起きてた!?
「イテテ…」
「あっ、だ」
大丈夫? が出かかって飲み込む。
昨晩のようなことはない、繰り返さないだろうと思っていたのに、手首を掴まれた時点で嫌な予感に捕まってしまったからだ。
「1センチぐらいしか動いてへんのに、なんでこんなに痛いねん…」
「………」
それでも私の手首をさらに掴み直す。
拘束する力が強い。
「捕まえた」
「………」
はい、捕まりました。
「約束、守ってくれたんやな?」
嫌な予感は見事に的中した。
あっさり、繰り返された現実に頭がクラクラする。
いつになく嬉しそうな口調に、かける言葉が見つからない。
『相手を間違ってますよ!』と教えてしまう?
昨晩は“香月さん”だったことにしておいて、今日は私がお見舞いに来たって設定でいく?
いやいや、昨日の今日で、なんで入院をしてることを知ってるのよ!二人共通の友人もいない。通学途中に噂になってた…って、藤崎くん春休みだし。朝、理事長に会ったことにする? でも実際、会ってないし…もし、昨晩からここにずっといたなら嘘だってバレるし…
思いついては消し、を繰り返していたら言い訳が無くなってきた。
「今日は、だんまりですか?」
からかい半分、探り半分。
相手からなんでもいいから、引き出そうとしている。
なに?
このせめぎ合う心理戦….
あっ、そういえば、王子様に声も香月さんと似ているかの確認をすることを忘れた。
もしかして見えない藤崎くんには、そこが一番の判断基準なのかもしれない。
てことは、声までも似ているのか…
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