再会

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「今日、早出?」 お仕事中にごめんなさい、の一言もなく質問から始まる。 「そうですね」 「じゃあ明日は遅出なん?」 「まあ、そうですね」 「じゃあ明日の帰り、寄ってええ? ここに」 「“寄ってええ”ことはないと思います」 「それ、どういう意味ですか?」 「寄らないでください、ということです」 「うん。じゃあ、今ここでキスする」 質問が終わると、無理難題が始まる。 いつものパターンだ。 「それはそれは、色々とすっ飛ばしすぎではないですか? それ以前に、職場でそうゆうことはご遠慮いただきたいのですが…」 「“職場前”でするのと、“職場の壁に囲まれているとこ”でするのは、どちらがいいですか?」 質問が、どうかしてるような… 「………」 「どっち?」 「………」 「……じゃあ!」 一歩前に、出てこられる。 距離を詰められたので、焦って、 「壁」 答えを出す。 目の前の人の思い通りの。 だってこの人、厚顔無恥だから。 たぶん、しれっと“しちゃう”タイプだ。 「じゃあ、明日寄る」 「………」 「な? 菜央先生」 「………」 「ん?」 「……どうぞ」 どうせ私が断れない、というか断らないこともわかっているくせに… なぜ、そんな聞き方をする!? その選択肢が普通ではありえないものばかりで、最後の一歩は、警告というか強迫。 本当に、意地が悪い。 素直じゃない私もいけないと思う。こうなるのもわかっている。けど、いつだって言い負かされるこの人の前では素直になれない。なる必要も感じない。つけあがるだけな気がする。 にしても、朝から無駄に味わう敗北感… 1日のクオリティもテンションも、だだ下りだ。 とにかく、押しが強い…
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