カギ

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「大丈夫ですか?」 目の前の王子様が心配そうに、黙り込んだ私の顔を覗き込む。 「顔色、悪いです。僕、何か失礼なこと言いました? すみません」 それほどにひどい顔をしているのだろうか。 目の前の王子様に焦る様子が見える。 「いいえ! 違うんです。波留野くんのせいじゃないです。最近、忙しかったから…ごめんね」 ごめんなさい、ともう一度小さく謝る。 「じゃあ、座ったほうがいいですか?」 「本当に大丈夫です! ごめんなさい。ボーとしちゃって…。あの、それよりどうして、波留野くんはここに?」 先ほどの答えを聞けてない。言ってくれてたかもしれないけど… 「藤崎さんのお見舞いに…」 波留野くんが不思議そうな顔で私を見てくる。 ごめん、おバカで… 頭が回ってない。 そこじゃなくて、 「どうして知ってるの? 入院してること」 これを聞きたかったんだった。 「昨日、助けてもらった御礼の電話をしたら事故にあって入院してるって教えてもらって…」 「教えてもらった?」 誰に? 藤崎くんは打ち身が酷すぎて身体を動かせないはずなんだけど… 「看護師さんが電話に出てこられて、聞きました」 あぁ! もう手懐けたってことね… 相変わらず、仕事が早い。 藤崎くんってそんな人だ。 いつの間にか保育園に藤崎くんがいるのが普通になっていて、ある日、園児と一緒に走り回ってて、二度見、いや、三度見したことがある。 藤崎くんの過去の悪行(←?)を思い出して、ちょっと笑えて、沈んでいた気持ちが浮上した。 「助けてもらったって、何かあったの?」 事故の前に、何があったんだろう。 「あの~…」 ソコは、困るとこなんだろうか。唇をギュッと真横に引き結び、何か思案している王子様。地面に視線を落としたところから見ても、言いたくないのだろう。 「どうしたの? 何かあった?」 逆にソコがとても重要な気がした。私が香月さんと間違えられた理由もソコにありそうな… 王子様の質問には答えずに、酷い大人だ。こんな純情で真っさらな王子様を追い込んでいる。 「あの~…」 『言いたくないならいいよ!』なんて、ごめん、言えそうにないです。ソコに期待しないでね。 「ん? 」 意を決したように、顔を上げた王子様は、 「実は…」 「うん」 「実は昨日、隣りの女子大生と合コンというか、食事会だったんです」 「んん?」 人生で最も必要なさそうなコトを言いだした。
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