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文香と桜子はポカンと口を開けていたが、やがて文香が紅葉の顔色を見ながら尋ねる。
「……さすがにそれだけじゃないよね?
性格の不一致とか、喧嘩とか……」
紅葉はニコリともせず、冷淡に言う。
「それだけだけど……何か問題でも?」
紅葉の答えを聞いた文香と桜子は二人して溜め息をつく。
そして桜子は宥めるように紅葉に話し出す。
「恋ってさ、少しずつ育むものだと思うのよ……
色んな所行ったり、他愛のないお喋りしたり……
そんなことの積み重ねで「好き」って気持ちが大きくなると思うよ、アタシは……
それを一週間で結論を出すのってどうかと思う訳よ……
だからさ、もうちょい長く付き合ってみてもいいんじゃない?」
すると紅葉はコトンと音を立てて、コップをテーブルに置き、桜子を見据える。
紅葉の黒い瞳は桜子を捕らえる。
その静かな迫力に脇で見ていた文香は思わず背筋を伸ばす。
紅葉は顔色一つ変えずに淡々と言う。
「一週間付き合ってみて、何しても、何も感じず、何も変わらないのなら、恋にはならないでしょう。
それに私がそう感じてるのに、相手が私を好きになっていけば、もっと酷なことになる。
そうなる前にフッた方が、相手も私以外の人を好きになる時間が出来るし、傷つかなくて済むでしょ?
……私は良かれと思って、相手を早めにフるだけなんだけど、それの何処がいけない?」
自分の為すことは全て正しいと言わんばかりの紅葉の態度に文香と桜子は閉口し、顔を見合わせる。
その時、紅葉の背後に忍び寄り、文香と桜子に笑いかける者がいた。
文香と桜子はキョトンとしていたが、その者はおどけたように言う。
「久々に見かけたと思ったら、随分高飛車な女になったもんだな……」
低くて、少し優しい声が紅葉の耳に届くと、紅葉は振り向こうとし、その者は後ろから紅葉の肩に手を回そうとする――
その時、紅葉の薄紅色の唇に柔らかいものが当たる――
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