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紅葉は目を見開き、目の前にいる者も似たような反応をする。
二人の唇は間違いなく(?)重なり合っている。
桜子と文香は唖然として固まる。
その者は周囲に気づかれる前にさっと離れ、さらりとした黒い短髪を揺らし、瞳を煌めかせ、微笑む。
「……ちょっとした事故だから気にするな。
俺も気にしないし。
だって「嫌い」なんだから、このくらい平気だよね?」
「嫌い」の部分だけ耳もとで囁かれた紅葉は、心に鈍い重みと鋭い痛みを感じた。
―その言葉は、この3年間後悔してきた言葉だった。
一番使いたくない人に……
一番使ってはいけない言葉を使ったあの時……
私は心底自分が嫌になった。
そうまでして自分の心を保とうとした自分自身に――
去りゆくその背はあの時よりも高く、スラリとしている。
顔立ちも声も変わってないのに、私を見る眼差しは冷たい――
「………だ、大丈夫?」
「めっちゃイケメンだけど、あの人知り合いなん?」
動揺を隠そうと作り笑顔で紅葉の様子を窺う文香と桜子に対し、紅葉はフッと微笑む。
「……あぁ、びっくりした!
「知らない人」にあんなことされて……」
――私は自分を守るために、また一つ嘘をついた。
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