巡り会ひて

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紅葉は走り続けた。 幾度も人にぶつかりそうにながらも、地面を強く蹴り、滑るように駆け抜けていく。 足元で起こる風は音を立て、紅葉に力を与える。 途中、掲示板の画鋲や杭などに三つ編みのゴムが引っかかり、弾け飛んだ。 波打つ髪は腰の辺りで揺れ、三つ編みを解いていく―― 紅葉は息と共に心を弾ませる。 早く会いたい―― 話したい―― 触れたい―― ……今までどれだけ想っても、望んでも叶わなかった…… それが私の行いに対する報いだと思っていた…… 素直に自分の気持ちを言えなかったあの時―― でも今ならきっと言える―― あの時の気持ちも今の気持ちも全部―― 教職員用昇降口に向かう途中の桜並木の下に黒須は立っていた。 半袖のカッターシャツに黒い長ズボン―― あの時と変わらない風に流れるさらりとした髪―― あの時と変わったのは―― 鋭く刺すような冷たい眼差し―― 紅葉は自分の胸が嫌な感じの音を立てているのに気づいていたが、もう自分の弱さに負けたくなかった。 「く…黒須君…… わ、私ね……… あの時からずっと謝りたかった…… 冷たくしてごめんなさい!!! 貴方が引っ越すって分かって離れるのが辛すぎて…… 当たり散らして…… 今更言ったって遅いの分かってるけど…… あの時からずっと……貴方が好きです! 私、それをちゃんと伝えたくて……」 振り絞る声は震え、自分でも声になった自信がない。 黒須が紅葉の方に近づいていく。 黒須が一歩ずつ近づく度に、紅葉の心臓はどうにかなりそうだった。 黒須は紅葉の前に来ると、紅葉の両肩に手を置く。 紅葉が思わず目を瞑ると、黒須は話しかける。 「あの…… 告白してるとこ悪いんですが、 貴女……誰ですか?」
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