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「……え?……だ…だって……」
紅葉は動揺し過ぎて、自分でも幼稚だと思える言葉を発していた。
でもそのくらい目の前で起こっていることは理解し難いことだった――
黒須は昼間と同じ服着てるし、顔、背丈、髪型は当然のことながら変わりようがない。
昼食の時は自分から話しかけてきて、知ってるような態度とったのに、今更知らないフリされても……という感じがある。
踵を返し、立ち去ろうとする黒須に対し、紅葉は彼の腕を掴む。
黒須は鬱陶しそうな目で紅葉を見る。
その視線だけで心は痛んだが、紅葉はめげなかった。
「待って!!
今更知らないフリされても理解出来ない……
お昼時に会った時は中学の時のこと話してくれたでしょ?
……あの時のことは、すごく悪かったと思ってるし、それですごく貴方が傷ついてるのも分かったから、こうやって来たの……
私とどうしても関わりたくなくて知らないフリしても良い。
それが今の貴方の答えなんだろうから……
でも……私と会った事実がなかったような言い方はやめて!!
私にとって貴方といた時間は――」
紅葉の言葉の続きを断ち切るように、黒須は紅葉の手を振り払い、ギロリと睨む。
何の感情も見えぬ冷めた眼で――
「とにかく、僕は何も「知らない」。
僕は「新田」。
貴女の言う「黒須」じゃない。
悪いけど、君の力にはなれそうにない」
そう言って歩き出す彼を紅葉は止められなかった。
一陣の風が吹く。
青葉薫る風は髪をなびかせ、涙をさそう――
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