思い出

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さりげなく私の名前を呼んだあの日から、黒須は私に声を掛けるようになりました。 廊下の角から顔を出したり、中庭で呼び止めたり、持久走の延長で教室まで走ってきたり.... とにかく時間さえあれば会いに行く― そんな自分ルールを作ってるのではないかと疑いを持つくらいに、彼は頻繁に来ました。 私の何処に彼は興味を持ったのかは分かりません。 でも彼はさらさらした黒髪を揺らし、丸っこい目をキラキラさせながら走って来る― それはいつも変わらない― これだけ会いに来れば、噂になりそうなものですが、彼の社交性が彼の周りに自然と人を集め、私に会いに来たという事実を上手く隠してくれた。 黒須は私に会いに来ては、色んな話をしました。 私は一言も話さないのに、何が楽しいのか、ずっと好きなだけ話しかける...... 私だって話したいことや聞きたいことがなかった訳ではありません。 .....そもそも何故、転入してきたその日に隣のクラスの私の名前をフルネームで知っていたの? 何故私の所に来てくれるの? 休み時間にすることないの? もしかして自分のクラスにハブられてる? ......好きな人いるの? 私が声を出したら、問いかけることがあったなら、もう会いに来てくれないかもしれない。 臆病な私は黒須といる時間が心地よくて、この関係を壊したくなかった。 だから私のことも、黒須のことも必要以上に知らなくて良いと思った。 そう、あの時までは......
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