ウィルドside 感情の名前

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 太陽が沈み始めた頃、屋敷に若い夫婦が慌てて入ってきた。 客間の場所を聞かれたので案内すると、少女の安否を確認しはじめた。  どうやら彼女の両親らしい。 今一度みてみると容姿がそっくりだ。 しかし、彼らは本当に人間だろうか? どうも疑ってしまう。何故だか本能が彼らは人間じゃないといってる気がしてならなかったのだ。  少しすると少女が起きた。 宝石みたいな瞳に両親の姿を写すと、透き通るような声で両親を呼んでいた。  あの声が俺に向けられることはないのだろうか? あの瞳で俺を見つめることはないのだろうか……  扉から覗いていると、彼女が俺に気がついて近づいてきた。 これって、もしかしてチャンスなのか?  声をかけようとしたらお父様に呼ばれたため仕方なく駆け寄った。 お互いに紹介しあったが少女は名前がないと言う。 両親は名前をつけなかったのだろうか?  とにかく彼女のことが知りたくてお父様に無理に頼んで彼女を案内することにした。 「……え、えっと……何で、あんたには名前がないんだ?」 「妖狐族だからだよ。  僕ら一族は名前がなくてもあまり支障がないの。 それよりさ、僕は君の口調が変わったことに驚いてるんだけど?」  妖狐族?ってもしかしてあの妖狐族? 成る程、さっきから感じてた違和感はこれだったんだ。 「わ、悪いかよ。俺だって時と場合によって変えることだってあるんだから。」 「あ、ごめん。別に悪いといっている訳じゃないんだ。  少し、驚いただけ。」 「なぁ、あんた。やっぱり愛称とかはないのか?  呼びづらい。」 「そんなことを言われてもな………じゃあセラススは?」 「セラスス?」 「とある世界の話で、春に咲く綺麗な花があるそうだ。それの名前がセラススと言うらしい。  僕はその花が大好きだから、セラススと呼んでくれると嬉しいかな。」  そのセラススという花がどんな花かはわからないけど、きっと美しい花なんだろう。 彼女に似合いそうな名前だった。 「うん、じゃあセラスと呼ぶことにするよ。」 「君に名前で呼ばれるのは、何だか少し照れるな。  では僕も君のことはウィルと呼ぶよ。」  セラスは柔らかく微笑んだ。 その笑顔が先程まで無表情だった彼女からは予想以上で、思わず見とれてしまった。
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