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「『山鹿』……」
皆川が、その単語を口に出す。
「山鹿がどうかした?」
顔を起こして訊いてきた。
「どうして山鹿なのかと思って」
「山鹿くん、桐島くんと仲が良かったよね」
そうだ。桐島と山鹿は入学時点からよく楽しそうに話していたのを見たことがある。ただ、
「夏休み明けからだったな。桐島が山鹿を、いや、お互いが無視するようになったんだ」
「えぇ、そうなの!?」
千尋も、皆川ほどのリアクションはないが目を丸くした。
「全然気づかなかった」
「そういえば、最近はそんな感じだったかも。文化祭の準備の時も、別行動だったらしいじゃない」
というか、二人とも知らなかったのか。あいつらをしばしば観察していると、いろいろと分かって面白いのに。性格悪いな、僕。だから友達がいないのかも知れない。
「それで、天体観測会にも参加していないはずだぞ」
「参加していないって」
皆川がミルクティを一口含んでから言った。
「どうして山鹿の名前が脅迫文書に出てくるの?」
「それと同じ疑問が、僕にも浮かんできたんだ」
おおー。皆川は鼻息を荒くして立ち上がる。白くなった息が鼻から噴射されているのが面白い。
「ついに進展の兆しが見えてきたわね」
ご満悦そうでなによりだ。
「明日は、山鹿くんに事情を聞いてみようよ」
「それがいいわ」
皆川はミルクティをストローで吸い込むと、空になった紙パックを綺麗に畳んでごみ箱に投げる。左手は添えるだけ。約十メートル先のごみ箱へそれは収まった。ごみ箱の蓋が隣に立てかけられている辺り、他の人もやっているらしい。
「行儀が悪いよ。さつきちゃん」
たしなめられて、皆川は照れ隠しに後頭部をかいた。
コーヒーを飲み終えた千尋も、中途半端に折り曲げられた紙パックを持ってごみ箱まで歩いていく。案外、不器用である。
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