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* 1 *
娘が生まれた。それは、山が芽吹き出した春先の出来事だった。
妻が抱えた、触れれば壊れてしまいそうな、小さな命。
それを見て、まず私は、ほっとした。子供が健康に生まれたことに。妻が無事であったことに。
私は娘の小さな手のひらを、そっと包んだ。
「今日の今日まで、お前の名前が決められなかった。大切な娘が一生背負っていく看板だと思うと、なかなか、な。だけど、――今日な、山が笑ってたんだ。お前が生まれたことを祝うように。それで決めたよ。
こんにちは、笑美[エミ]」
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