第二章五話

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「………………」    零の姿が消失する。  時雨は目で追うが、彼の姿を捉える事はかなわない。  先程と同様に、眼前に出現し拳を繰り出すと予測をしたが、それは間違いだった。 「――ッ!?」    時雨が零の姿を視界の端で映した時には、全てが遅かった。    上空から衝撃波が襲って来る。  牙を剥いた猛獣のように、獰猛な風圧が時雨に喰らいつく。    道路に時雨の体はめり込む。  骨は軋み、四肢がねじ切れるような味わいを感じる。  肺を圧迫され、呼吸すらままならない。  これが御堂零の実力なのか……!    明滅する視界の中、時雨は恐怖と感嘆を憶えざるをえない。  情報では、御堂零はただのトライアングルという事だった。  幼少の頃から魔法を殺傷の目的で活用していた時雨は、零を舐めてかかった。  時雨が所属する組織で、自分は一番の腕前を持つ。  ドットの自分が、だ。  中にはダブル、トライアングルの連中もいるが、そいつらを押しのけナンバー1の座を勝ち取っている。  何故自分が組織で一番の腕前を誇っていられるのか。  それは一つの属性に特化している事と、相手の〝弱さ〟を的確に突く点にある。  人は誰もが〝弱さ〟、〝脆さ〟を抱えて生きている。  自分はそこを上手く攻撃する。  御堂零が十年前の大火災を心的外傷にしているように、時雨自身も大火災を心的外傷としていた。  ただ御堂零と異なる点は、その心的外傷を憎しみの苗床にしている事だ。  十年前に、斜交時雨の親兄弟、友人達を葬った奴を捜し出して絶対に殺す。  それを生きる糧として組織に身を投じ、これまでの生を歩んできた。
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