0人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
第二章四話
「彼女に、触れるなっ!」
道路に激突し、呆けた顔を時雨は浮かべる。
一瞬時雨も何が起こったのか理解出来ないでいるようだった。
唇の端が切れ、一筋の血が流れている。
時雨は血を拭い……嗤った。
「いいねぇ、御堂。やればできるじゃねえか」
時雨の両手が真っ赤に燃え上がる。
零の拳にも水流が巻き起こった。
「クハハッ。〝火〟には〝水〟か。セオリー通りだ、なッ!」
時雨が駆け出すと同時に、零も駆けた。
繰り出される紅蓮の拳を零は受け止める。
水の属性で火の属性を中和しているからこそ出来る芸当だ。
続いてもう一方の拳が眼前に迫ってきた。
辛くも受け止め、両者は睨み合った。
「やるじゃねえかっ」
多少の感嘆を含む讃辞を送る時雨に対して、零は素直に喜べない。
避ければ、背後にいる姫希が怪我をする。
こいつは姫希を傷つけるのに躊躇しないだろう。
内実を悟られないよう平然を保っていたが、突如、視界が揺らいだ。
頭突きを喰らった、と理解したのは痛みが額に押し寄せてからだった。
目の前が混濁する。
意識が飛びそうになるのを必死に堪え、零は蹴りを放つ。
時雨の腹部に直撃した反動を利用して、零は背転し距離をとる。
最初のコメントを投稿しよう!