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第二章五話
姫希の姿を零が捉えた瞬間、時雨は爆ぜるように飛んだ。
コンクリートの壁に時雨はめり込む。
「御、堂……!」
「………………」
零は無言だった。目は虚ろで、そこに感情はない。
あるのは眼前の敵を排除するという意志のみ。
プログラムされたロボットが決まった行動を取るように、零も一つの行動を選択していた。
十羽乃姫希を――十年前の大火災の生存者を護る。
その事が、零の中で断固した決意となっている。
斜交時雨――大火災の被害者。
だが零は彼を傷つける事をいとわない。
生存者が御堂零を痛めつけるのは一向に構わない。
しかし、生存者が御堂零のために死んでしまうような事は、決して看過できない。
だから御堂零は、斜交時雨を初めて〝敵〟と認識した。
混濁する意識の中だったが、敵を鮮明に、明確に把握していた。
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