プロローグ

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 私が“彼”と出逢ったのは、今年の3月。22歳の私が幾度も就職活動に失敗して、ようやく中小企業の正社員に就職でき、その内定式がある日のこと。リクルートスーツを着た私が、その会社があるビルのエレベーターホールの前にやって来た時、彼は既にエレベーターホールでエレベーターを待っていた。  初めて見た時の彼は、私とほぼ同年代くらいの若い男性。イケメンではないけど普通の顔立ち。身長は高く、黒の短髪。メガネを掛け、黒スーツを着ていた。彼を横から見ただけなのだが、その黒スーツをビシッと綺麗に着こなした彼が何だか格好よく見え、その姿に一瞬だけ足が止まって見惚れてしまった。  その直後、エレベーターがやって来て、彼が先に乗り、入口傍の行き先ボタンの前に立った。その時も私は立ち止まったまま彼の行動に少し見惚れていた。  「乗りますか?」 と、立ち止まったままの私に向かって彼が言った。私はその時ハッと我に返り、「あ、乗ります!」と言って、慌ててエレベーターに乗り込んだ。  「何階ですか?」 と、また彼が私に背を向けたまま聞いてきた。彼の手元の行き先ボタンを覗いてみると、私が行きたい階のボタンが既に押されていたので、私は「あ、同じです」と彼に言った。彼は「分かりました。」と言って、エレベーターの扉を閉じるボタンを押した。  エレベーターは、そんなに広くはない。大人4、5人入れば満員になるくらいだ。私は彼を後ろに、壁を背にして立っていたのだが、手を少し伸ばせば簡単に届きそうな距離だ。  エレベーターを昇っている最中、彼は黙ったまま、ジッとエレベーター上部の階が表示されている液晶画面を眺めていた。私は、その画面を見ず、ただ黙って彼の後姿を見ていた。  この人も私と同じ階に行くらしいが、同じ階にある別の会社に勤めている人なのだろうか。それとも、私と同じ会社に勤めている今後先輩になるであろう人なのだろうか。
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