0人が本棚に入れています
本棚に追加
少ししてエレベーターの扉が開き、目的の階に着いた。彼は開扉ボタンを押したまま、さり気なく「どうぞ」と後ろに立っていた私に言って、私を先にエレベーターから降ろしてくれた。私は「あ、ありがとうございます…」とお礼を言って、エレベーターを出た。
エレベーターを降りた私は、そのまま目的の会社に向かって廊下を歩いていた。少し遅れて彼も私の後を歩いていた。
このビルには同じ階に2つの会社がある。エレベーターホールから一番遠い場所にあるのが私が行く会社だ。もう1つの会社の入口の前を通り過ぎた私は、歩いたまま少し離れた後ろを歩く彼の気配に意識を集中させた。その会社の入口に彼が入って行けば、私とは別の会社の人という事になる。しかし、彼はその入口には入らず、そのまま私の後を追いかけるように歩き続けた。つまり、彼は私と同じ会社の人という事である。
目的地にたどり着くと、会社の社長が自ら私たちを出迎えてくれた。その社長の案内のもと、私は会議室に案内された。すると、彼も続いて私と同じ会議室に案内された。部屋には既に数名の男女が席に座って待っていた。
「これで全員集まったから、まもなく内定式を始めるからね。」
と、社長が言った。
私を含めてこれで全員と言う事は、彼は私と同じ、同僚であり同期と言う事だ。見た目から私よりも少し年上っぽく見えたから、先輩かなと思ってしまった私が何だか恥ずかしい。
空いていた席は2つしかなかったので、必然的に私の隣に彼が座る事になった。彼はジッと前を向いて黙ったまま内定式が始まるのを待っている。私も同じようにしようとしたが、時々、彼が気になってチラッと横目で見てしまう。メガネを掛けキリッとした表情に私は不覚にもドキッとしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!