七転び八起き

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カチ、カチ、カチ。 時計が時を刻む音が響く。 私の前で、彼は無言で、すでに何時間も原稿を読んでいる。 どうなんだろう。 今回の作品には自信があって、今度こそは採用されると確信してるけど、やっぱり不安になる。 ピシャッ。 編集者が、原稿を読むのを止めた。    ゴクリ。 喉が鳴る。 どうだろう。 どうなんだろう。 「和美さん」 「は、ひゃい!」 やば、噛んだ。 「面白いですよ」 やったー。 これで私も貧乏作家から逆転サヨナラホームランだー! 「でも、採用は無理です」 え"? 「これ、ほら」 編集者が新聞を差し出した。 そこには、先日、知り合いの言葉が解決した事件が一面を飾っている。 「た、確かに現実の事件を扱ったものですが、ほ、本人の了承は……」 「あ、こっちか」 今度は別の新聞を差し出す。 一面の下にある広告欄には、今をときめく天才子役の顔写真とともに、宣伝文が踊る。 『天才子役ココロカナタ、作家デビュー。処女作は自身の関わった事件をもとに執筆!』 ……。 「じゃ」 そう言って、編集者は部屋を退室していく。 「あ、ちょ、これ、えー。編集者カームバッーク!&漁夫の利持ってきやがって、許さんからな~!」
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